「はぁ~ぁ…つまんないなぁ。
せっかく夜にオフやったのにふーちゃんはエラのとこお泊りやし…。」
「あ!良かった…出てくれて。あたし、わかる?あなたのご先祖さまのシャーロット!」
「キャリコママに聞いたらすぐ教えてくれたわ。ねぇ、そんな事はいいの。
あなたの忘れ物を預かってるわ。もう気付いてるかもやけどね。
明日、ショアのスタジオまで取りに来てくれたら返すわ。」
「は?明日!?そんな急に…俺は明日オーディションがあるんで無理です。
アルヴィンさんに渡してもらえますか。そうしてもらったらそのうち取りに行く。」
「オーディションってショアで受けるんでしょ?丁度いいじゃない。
それと、アル兄は世界的名医なんよ?忙しくて滅多にアポなんて取れへんねんから。
そんなに大事じゃないならあたしがもらってもええよね?…今度のツアーに着けてこうかな…。」
「(くそ…それは、あかん…!) わかりました…。場所と時間をまた連絡して下さい。」
「あーあの、あれや、ベロナールから連絡があってやな。
お前がこないだゆうとった通り、俺が失くした腕時計見つけて預かってくれとったらしいんや。」
「わぁ!いいな~ベロナール様から電話!?」
「やっぱりベルナール様がどみちゃんの腕時計を大事に持っててくれたんだ…やさしいなぁ…♡」
「急やけどな、明日受け取りに行くことになったんや。お前も一緒に行くやろ?」
「え!!ライカも行っていいの!?ベロナール様にまた会える…」
「どみちゃん明日オーディションだもんね。ライカ邪魔になっちゃうし…。」
(そんなこといつも気にせーへんくせに…。ベロナールのロマンスにまだ落ち込んでるんか。)
「は…。俺はお前が何思っとるかわかっとるけどな。」
「寝るまでチェスのスキル上げ、付き合ったる。」
「えーどみちゃんライカに勝てるー?」
「うっさい。今度は勝つ!」
「じゃあな、行ってくるけど…お前はほんまにええんやな?」
「…うん、行ってらっしゃい。気をつけて、オーディションがんばってね…。」
「あぁ、そうや、食材を採ってきといてくれるか?
ツインブルック公園なら ええライムがあるはずや。」
「ん…わかった…。」
「この子…コロンっていうの!この子をベロナール様に渡して!
ライカからのプレゼントだって…!」
「おい…お前、俺にそれを持ち歩けってゆうんか!?」
(渡すまでカバンぜったい開けられへんやんけ…!)
「だって…ライカの代わりにずっとお守りみたいにこの子がベルナール様の
そばにいてくれたらうれしいなって…。だめ?ライカ、変…?」
「別に…おかしかない。ちっ…ほら、よこせ。」
「あっ!頭掴んじゃだめ!!!」
「え、そういえば…どみちゃん…??まさかその服で行く気…???」
「あん?なんや文句あるんか!」
「ダメダメダメー!ベロナール様に会うのにそんな格好じゃダメーッ!!!」
「こないだ買った新しい服、あれにしよ!ほらー!早く戻って着替えるのっ!!」
「うわッ!!やめろ!!!あんな派手な服着て歩けるかアホ!離せっ……」
(噂には聞いとったけど、デカイな。ここがキャリコさんが買い上げたスタジオか。)
「は?人聞きの悪いことゆうな。ほんまにその腕時計が俺のか見ようと思っただけや。
…お前こんなとこで倒れてなにしてるんや。具合でも悪いんか…?」
「気にしないで…好きなの。こうやって寝転んで…練習で傷ついた床を見るの。
ステージ前の精神統一ってやつかな…。」
「ね、ドミニッチ。敬語より今の話し方が好きやわ。
あたし、アル兄以外の男の子が同じ言葉で話してるの初めて聞く。
家族って感じがしてすごく嬉しい…!」
「…客が来るんわかっとるのにそんな格好で寝てるやつに遠慮はいらんと思っただけや。」
「まだダメ。
見せて。あなたの曲芸。そしたら返してあげる。」
「交換条件か…?俺の曲芸なんか見てどうすんねん。変なやつやな。」
「オーディション用の衣装しか持ってないんや、着替えとるような暇はない。
このままでええやろ。」
「もちろん、好きにしてええよ?」
「服を脱いで演ってもいいわよ?あたしはたまに裸で練習するわ。」
「は?お前みたいに……あの楽屋…鏡の位置と着替える場所おかしいやろ!?
なんやあれはわざとか?気をつけろやもっと。」
「あほなこと言わんといて!滅多に他人は入れへんねんから。
あたしもあの後、ふーちゃんに言われて気付いたの!ふーん…やっぱり見てたんや…。」
「ねぇ、あたしはふざけて言ってるんじゃないわよ。
守られてることに頼って擦り切れそうな所はない?
本当なら素肌が傷付くような道具の使い方はしてない?衣装をよく見ることね。」
「…やってみる価値はあるっちゅうことか…。」
「綺麗…?そんなこと考えたことあらへんな。仕事に適した身体やとは思っとる。」
「どうして?自分の身体を常に意識して、美しく魅せるのもパフォーマーの仕事よ。」
「…道具、借りるぞ。」
(いけるはずや…落ち着いて、いつものように演ればええ…!)
「チッ……わかっとる!」
「そうや!ドミニッチ。あなたに見て欲しいものがあるの!
今度のツアーで新調した衣装!ね、着替えてくるから見て感想を教えて!」
「うわッ!いきなり立ち上がるな!危ないやろ!」
「絶対待っててな!勝手に帰ったらもう腕時計はあたしが貰うんやから!」
「あーもう!わかったから、はよせぇ!!!」
(でも…もし、ライカの目の前でベロナール様がロマンスの相手と一緒に居たら…?
ライカ…どうなるのかわからない。ベロナール様に怒るの?泣くの…?)
「あ…。 どみちゃんのおつかい…野菜と果物とりにいかなくちゃ…。」
「よぉ!お疲れさん!差し入れだぞ。」
「おお~ちょうど欲しかったとこだ~。サンキュー!」
「朝からやってた祭りの公園の工事終わったな~。
見たか?大曲芸師・ベロナールの大看板!」
「おー、見た見た。今度のツアーはデカいらしいからあちこちで派手な宣伝だな。」
「あ~ぁ、あんないい女と一回でもヤッてみたい人生だったぜ!」
「ハハハ。オレたちは経営者だからな、一般人よりチャンスがあるかもしれないぞ?」
(ベロナール様がここまでくるのにどれだけいっぱい頑張ってきたか…。
だめだ…今のライカじゃ全然だめ…。)
「ライカ…もっとがんばるから…ベロナール様…待っててね…。」
「おまたせ!あ!もう服着てる。」
「当たり前やろ、いつまでもあんなカッコでおれるか。」
「あ~…。まぁ、ええんちゃうんか?」
「ちょっともー!ちゃんと見て……え!?それなに??
もしかしてあたしにくれるん!?」
「俺からやないわ。お前に、ライカスタからのプレゼントや。」
「そうなんや…!ライカスタがあたしに…嬉しい。」
「…覚えてんのか。ライカスタのこと。」
「ふふ…もちろんよ。可愛い子は忘れないの。」
「赤い長靴履いちゃってる…あたしの好きな色、知ってくれてるんやね…。」
「土産も渡したし、もうええや…」
「ぶかぶかやんけ…よく落とさんかったな。」
「そう、やから…気をつけてたもん。」
「あぁ…。お前が持っててくれて助かった。失くしてから気付いたんや。
これは俺が未来人やって唯一の大事な証やってこと。」
「もう用はない。じゃあな。」
「あ!待って、ドミニッチ!スマホ持ってる!?」
「…は?」
「ほら、ライカスタへのお礼。ちゃんと渡したって、証拠写真撮ってもええんよ?」
「はぁ~っ…。」
「ちょっと!そんな盛大に溜息つかんといて。」
「今日のショーが終わったら迎えに来るからね。ね、ドミニッチ。この子の名前は?」
「ん…?あぁ…“コロン”とかゆうとったな。
(あいつの母星の“コロナー”から捩っとるんやろうな…。)」
「コロン!かわいい名前…。よろしくね。コロン。」
「どう?見せて…。わ…ええやん♡すごく良く撮れてる。」
「あぁ…これはきっとめっちゃ喜ぶと思う…。礼を言う。」
「さぁ、俺はこれからオーディションや。お前もステージがあるんやろ?」
「あっ!!」
「ね、ドミニッチ!キスして。今日もステージで怪我しないようにって」
「おまじないのキス!」
「アホちゃうもん!なぁ、軽くでええの!エッチなやつじゃなくていいから!」
「はぁ!?エッ…?(ッチなやつってなんや!?)
ふざけんな!なにがおまじないや!
大曲芸師ベロナール様が今更なにゆうとんねん!離せ!!!!!」
「どうして…?今更って何?今日、ショーの最中に死ぬかもしれないわ。
それでもいいってくらいあたしはいつも全力で演ってるわ。」
「舞台の上で何一つ、後悔したりしたりしないように…!」
「ごめん…。こんなにショーの寸前まで誰かと一緒やったの初めてやから…。
ちょっと甘えたくなっただけ。」
「今日は来てくれてありがとうね。今度はライカスタと観に来て。
良い席のチケットを用意するわ。…じゃぁ、またね…。」
「俺には…舞台で命を落とすと警告したくせに、お前はそれか…。」
「…うん。」
(予定より遅なってしもうたな…ライカに連絡しとくか。)
「ねぇ、そこのあなた、“ニーリックス”よね?
オーディション合格おめでとう。一杯奢らせてくれるかしら。」
「ベロナールの前座も見たわ。新人とは思えない度胸ね。いい演技だったわ。」
「ありがとうございます。生憎ですが、俺は酒は飲まないんで。」
「“飲めない”じゃなくて、“飲まない”のはどうして?
酒に酔って、理性を失くして、
大事な可愛い彼女を抱いてしまうかもしれないのが怖いの?ドミニッチ。」
「…あんた…何もんや。」
「…名前なら、“アン・キム”よ。別に好きに呼んでくれて構わないわ。
あなたの手足になるために、あなたのご先祖様のキャリコに大金で雇われた女よ。」
「なんでも言って。何でもするわよ。ゴミ箱ダイブから、性欲処理まで。」
「ふぁぁ…どみちゃん遅いなぁ…ライカ、退屈になってきちゃったよ~。」
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